「音楽は言葉よりも感情を伝えることができる。」 これはメンデルスゾーンの言葉である。 100年以上も前に生まれた音楽でさえ、 現在の私たちの耳にいつも新鮮で感動的だ。 それは、メンデルスゾーンが言うように、 音楽が様々な想いや感情を言葉を介せずに伝えるからであり、 聴き手にとってもその時の人生や思想が大きく影響するからに他ならない。 そこにはいくつもの偶然の素晴らしい出会いが存在する。 ザグレヴの戦禍で荒れ果てた公園に、 家族も住む家さえもすべて失った少年がひとり立っていた。 衝撃のあまり涙さえ枯れ果てたその少年は、 無意識に小さなころから慣れ親しんで来た民謡を口ずさんだ。 すると、絶望感でいっぱいだった町の人々がその歌声を耳にし、 ひとりまたひとりと一緒に歌い始め、 そして、いつの間にか町中が歌声でいっぱいになったという。 すべてを失い極限の状態になっても、音楽だけは消えなかった。 それどころか、ずっと鳴り響き続けていた。 心の奥で鳴り響いていた音楽が、言葉にならない気持ちとなり、 以心伝心した結果起こった奇跡的な出来事であると思う。 本当に、魂のこめられた音楽は、 その後もずっと記憶に残り行き続けるのだ。 だからこそ、すべてを見失いそうになったときには、 体の奥にながれている音楽が強烈なメッセージを発し、 人は全身に響き渡る音楽に導かれ、 新たな一歩を踏み出せる力を与えられるのかもしれない。 音楽に少なからず携わり、 アンサンブルの魅力にすっかりはまってしまっている私たちは、 音楽にいつも励まされ心動かされ、迷った時や苦しい時は導かれ、 意識するわけでもなく自然にここに集まって来た。 このメンバー、時間、空間で音楽を共有できることは この瞬間だけで二度とない。 今日ここで音楽を演奏できる喜びを実感し、 音楽とともにこれからも生きて行けることを 心から願わずにはいられない。